衛星画像を利用する利点の一つとして、遠隔から広域を繰り返し観察できることが挙げられます。現地調査が困難な地域を対象とした考古遺跡の調査で、国士舘大学イラク古代文化研究所が衛星画像を利用した事例を紹介します。
国士舘大学イラク古代文化研究所は、1976年にイラクを中心としたユーラシアの古代文明を解明する目的で大学直属の附置研究所として設立され、西アジアの国々を中心として考古学調査・学際的な共同研究・文献収集等をおこない、研究成果を公開しています。
研究対象である西アジアでは、1991年のイラクのクウェート侵攻及びその後の湾岸戦争、2003年のイラク戦争などで、考古遺跡等の文化遺産は破壊や略奪等の被害にあいました。情勢が悪化した際は現地調査をおこなうことが難しいため、遠隔から広域を安全に観測できる利点をもつ衛星画像を活用して調査がおこなわれました。
イラク戦争後には文化遺産復興のため、JICA・ユネスコ・ヨルダン考古局が共催し、国士舘大学が協力してイラクの考古学関連職員に対する復興プロジェクトが開始され、その中でイラク当局に遺跡の管理やパトロールで利用してもらうためのGISの研修や、衛星画像を利用した地図の作成及び提供がおこなわれ、文化遺産の復興に役立てられました。
また、イラクやシリアを中心とした西アジアの考古遺跡のデータベース化の研究では、各種衛星画像(時期・解像度)を利用した機械学習による遺跡の抽出や分布調査がおこなわれました。
2010年12月にチェニジアで始まったアラブの春は周辺諸国に広がり、混乱の中、文化遺産が破壊される報告が出てきました。特にシリア、イラクでは戦闘による被害に加え、過激派組織による意図的な文化遺産の破壊が行われるようになり、被害状況の把握が喫緊の課題となっていました。
そのため、紛争地の考古遺跡を安全かつ詳細に観測するため、高解像度衛星を使用することになりました。
遺跡の破壊状況を詳細に確認するには解像度が高いことが求められますが、従来の高解像度衛星画像はコスト高であることが課題であり、エアバス社のプレアデス衛星は解像度50㎝と空中写真に近い性能を持ちながら、アーカイブデータが比較的低コストで導入することが可能でした。
イラクのモスル、ニネヴェ、アッタールや、シリアのパルミラ遺跡などを対象にプレアデス衛星を利用して調査をおこなっていましたが、2015年3月にイラク北部のメソポタミア文明・アッシリアの都市遺跡ニムルド(Nimrud)が破壊された情報を入手した際には、遺跡の破壊前後の観測結果を用いて、迅速に状況調査が行われました(図 イラクニムルド遺跡の破壊前後)。
現地調査が困難な地域を調査する際は、遠隔から広域を繰り返し観察することが可能な特徴をもつ衛星画像が重要なツールであるといえます。
衛星画像を活用した成果が今後の遺跡修復計画の基礎資料となり、人類共通の文化遺産である考古遺跡の復旧の一助となることを期待しています。
グリーン航業株式会社
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当社は、空中写真、衛星画像等を用いた森林調査、各種計画の作成を通じて健全な森林の管理保全に寄与することに努めています。また森林分野だけでなく、西アジア等の衛星画像解析や、現地へ赴いてのドローン写真測量による3Dモデルの作成等の業務も承ります。